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福岡地方裁判所久留米支部 昭和61年(ヨ)162号 決定

債権者

松尾勇夫

右代理人弁護士

馬奈木昭雄

三溝直喜

小宮学

小澤清實

債務者

平和第一交通有限会社

右代表者代表取締役

花田謙

右代理人弁護士

大石幸二

主文

一  債権者が債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、昭和六一年一一月四日から本案判決の言渡しがあるまで、毎月七日限り一カ月金三万九七一五円の割合による金員を仮に支払え。

三  債権者のその余の申請をいずれも却下する。

四  申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  主文一、四項と同旨。

2  債務者は債権者に就業の機会を与えなければならない。

3  債務者は債権者に対し昭和六一年一一月四日から就労に至るまで毎月七日限り、金一二万八〇〇〇円を仮に支払え。

4  債務者は債権者に対し、債権者が就労した後本案判決確定に至るまで、毎月七日限り、それぞれ別表賃金表に基づいて算出した金員を仮に支払え。

二  申請の趣旨に対する答弁

1  債権者の申請を棄却する。

2  申請費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

別紙仮処分申請書記載のとおり。

二  申請の理由に対する答弁および債務者の主張

別紙答弁書および準備書面(一)記載のとおり。

第三当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実、疎明資料によって一応認められる事実および当裁判所に顕著な事実は以下のとおりである。

1  債権者は、債務者にタクシー乗務員として雇用されていたものであり、債務者のタクシー乗務員ら従業員で構成される自交総連平和タクシー労働組合(以下「組合」という)に所属している者であり、右組合の執行委員長の地位にある。

2  債務者は、もと商号を有限会社平和タクシーと称し、佐藤龍二郎及び水口昭雄が夫々代表取締役であったが、赤字経営が続いたため、昭和六一年六月第一通産株式会社ないしその関係者に買収され、経営者が交替して宮脇清が代表取締役に就任し、第一交通グループに属する会社として同月一〇日商号も現在のとおり変更された。その後昭和六一年一二月一三日、花田謙が代表取締役に就任してその旨の登記を経由した。

3  右買収後債務者会社は、赤字経営脱却のため、経営の合理化を行うにつき必要があるとして、組合員を含む全従業員に一旦退職を求める方針を樹て、会社取締役白川音芳は、同年六月一四日と二四日に開かれた組合との団体交渉の席上、希望者は再雇用することを条件に組合員債権者らを含む全従業員に一旦退職することを求め(いわゆる身分一新)、右二四日夕方には会社の掲示板に期限を同月二六日午後五時までとして、退職勧奨が掲示された。右退職勧奨の内容は、従前の協定による退職金を支払うこと、夏期賞与に見合う相当額を支払うこと、会社再建のため再入社希望者は直ちに入社手続を行うことなどを内容とするもので、会社の支配人格である広瀬博价、営業係長中原益男、同井上秀次郎らは、右会社の方針に従い、組合員債権者らに対し、社内のみならず、その自宅を訪問し、また自宅に電話をかけるなどして退職を勧奨した。

ちなみに、この勧奨は、同年七月一三日まで期限が延長されて行われたが、その後は打切られた。

4  組合は、昭和六〇年七月二五日、会社と期間を三年とするユニオンショップ協定を締結していたことから、右身分一新は、その協定の失効を狙うものであり、組合を潰そうとするものであると反撥し、争ったが、右勧奨期間中である昭和六一年七月一〇日頃、組合員であった瀬戸重隆、藤吉岩雄、江上健、、青木秀義らが、右会社の方針に従って退職の上再雇用され、「筑後会」なる第二組合を結成する動きをなし、、同月一二日、会社の従業員寮で結成のための集会を開いて、前記白川取締役、広瀬博价、中原係長らも同席の上役員が決定され、翌一三日右結成の事実及び役員名が点呼室に掲示された(会長瀬戸、副会長藤吉、書記青木、会計江上)。

5  右筑後会の結成を知った組合の書記長近藤良介、組合員小宮治夫、同本田末昭、同赤坂賢治は翌一四日午前一〇時三〇分ころ久留米市津福本町所在の聖マリア病院内のタクシー乗場に勤務中の右藤吉を呼び出し、約一時間にわたり組合脱退の理由や筑後会入会の経緯について質問した際、「会社に出勤するのを辞めろ。辞めないと宣伝車を持って来て近所に裏切者とか金をもらった犬等と宣伝してまわるぞ。会社に出社したらどうなるか判っているか、家族も困るぞ。」などと難詰した。このため同人は、同日は午後零時で早退するとともに同月一六日、同月一八日および同月二〇日の勤務を欠勤した。

しかし、右は、筑後会の結成が債務者の支配介入による第二組合の結成であると判断した組合側の事情聴取においてたまたま発生した事件であって、債権者は当時現場にはおらず、債権者が執行委員長として右藤吉に対する非難攻撃を指示するなどこれに関与した事実の疎明はない。

6  また債務者は前述の買収による経営者の交替後これまで組合が行なってきた会社敷地内での組合旗、赤旗の掲揚を禁止し、口頭または文書で再三にわたりその撤去を組合に要求したが、組合は従来からの慣行であり正当な組合活動であるとしてこれに応ぜず、これに対して債務者側も組合が掲揚した組合旗等を実力で引きずり降ろして隠匿したりするなどしたため、同年七月一二日には福岡県地方労働委員会から債務者に対し、組合が行なう会社敷地内での組合旗の掲揚等について慎重に対処するよう勧告がなされたが、その後も右のような事態は続いた。

このような状態にあった同年八月六日午前八時三〇分ころ、債権者は組合副委員長である池松俊明および組合員後藤幸典らとともに債務者会社の管理職である井上営業係長や畑総務課長の制止を無視して会社構内に組合旗、赤旗六本を立てた。

また、同月八日には、債権者は右後藤とともに債務者会社事務所において、債務者が組合の掲揚する組合旗、赤旗を無断で引きずりおろして隠匿したことに憤激し、その場に居合わせた畑総務課長に対し「この盗人が」などと大声で怒鳴りつけた。

7  ところで、同月一三日債務者は組合員赤坂賢治に対し、筑後会会員らへの脅迫暴行等の行為があったとして懲戒解雇の処分をし、会社施設内への立入りを禁止したが、同人は債権者の指導する組合の支援のもと、右処分が会社の不当労働行為意思に基づくもので無効であると主張し、しばしば会社施設内へ立ち入り、組合員と談合したり、組合側の行う組合旗の掲揚を手伝ったりしていた。

同年九月二日赤坂は組合活動のためであるとしていつものように会社施設内に立ち入り、債務者の畑総務課長の制止にもかかわらず近藤書記長とともに会社構内に組合旗、赤旗を設置した。

また、同月四日午後零時一〇分ころ右赤坂は組合活動として債務者会社構内点呼室へ立ち入ろうとしたため、債務者営業係長井上秀次郎が入口に立ちはだかりこれを阻止しようとしてもみ合い、二人とも転倒して右井上係長が負傷するという事件が発生したが、この傷害事件は、偶発的なもので、債権者もしくは同人が執行委員長である組合が当然にその発生を予想していたことの疎明もない。なお、債権者は、その事件現場には居なかった。

8  また債務者は生産性の向上を図ることなどを理由に従来採用していた一か月一三乗務制(隔日勤務制)を改め、いわゆる一か月二四乗務制(日勤勤務制)に変更する旨決定し、組合に提示したものの話し合いがつかなかったため、同年一〇月一日より新乗務体制を施行することを組合に通告した。これに対し組合は労働契約内容の一方的な変更であると抗議し、同日より、当裁判所において債務者会社に対し一か月一三乗務制を確認する旨の仮処分決定(昭和六一年(ヨ)第一三五号労働契約仮処分申請事件)がなされた同月二八日までの間ストライキを行ない対抗した。

そして、右争議の期間中である同月一日から一八日(ただし、通告書の処分理由には一七日となっている)までの間債権者は、前記近藤書記長や池松副委員長らとともに連日多数の組合員を動員して争議の正当性についての街頭教宣活動を行ったが、その際筑後会会員である瀬戸重隆、江上健、藤吉岩雄、平田良水、丸山一夫、丸山金太郎らの久留米市や、八女郡広川町所在の各自宅附近でも、宣伝車の拡声器を使い、あるいは近隣にビラを配布するなどして教宣活動を行なった。その内容については「お金のためなら身を売る」、「卑劣な男」、「小さな体で虚勢をはっていますが本来は何もできない男」「組合を裏切って会社の犬になりさがった裏切者」「わずかな金を貰い会社に寝返った男」「非常に出鱈目な男」「非常に情けないというか、ずるいというか、腹の黒い男」などと筑後会会員個人を誹謗中傷して名誉を毀損するようなものがあったり、「全国でも名高い悪徳タクシー企業」「従業員に対する暴力支配、低賃金、長時間労働又約束は守らない全然出鱈目な会社」「前借をさしますとタコ部屋と同じ」「暴力タクシー」などと債務者を非難し信用を毀損するような言動もみられた。

また同月九日午前一〇時三〇分ころ、八女郡広川町所在の右平田良水宅前において債権者は右のとおり近藤書記長や池松副委員長らとともに多数の組合員を動員して教宣活動を行なっていたところ、平田の家族の要請を受けて債務者会社の畑総務課長、中原営業係長、第一通産の山本係長らが駆けつけ監視していた際、組合員小宮治夫が平田宅の閉鎖されていたガレージシャッターを開けようとしているのを右山本が撮影したことからこのフィルムの交付を要求する右小宮他組合員らと右山本及び前記債務者側管理職員らとのもみ合いになり、右会社側職員らが夫々傷害(打撲傷)をうけたとして、診断書を提出し、また右畑三雄所有の乗用車も損傷を蒙った事件が発生した。本件の場合債権者は現場に居たが、右事件そのものは偶発的なものであって(仮に右の傷害の事実もあったとしても)、事前にそれらの発生が予想されたものではなかった。

9  債務者は、同年一一月四日債権者に対し、右5ないし8の各事実が別紙通告書記載のとおり債務者就業規則八六号各号の懲戒解雇事由に該当するとして同条但書により諭旨解雇の処分をした。

二  ところで、債務者が主張する解雇事由のうち昭和六一年七月一四日の藤吉岩雄に対する脅迫(別紙通告書第1、1)、同年九月四日の井上営業係長に対する傷害(同第1、3、(2))および同年一〇月九日の事実のうち畑総務課長らに対する傷害と乗用車の損傷(同第1、4(2))の各事由については、前述のとおり債権者自らこれらの行為を実行したわけではなく、また右各事由はその経緯に照らして偶発的なものと認められ、債権者が事前にこれらを企画、指導したことは認められず、また事前にその発生を予想しながらこれを容認していたことの疎明もない。したがって、これらの事由については債権者には何らの責任もなく従って、債務者就業規則八六条一三号の「他人に危害を加え又は暴行、脅迫を加えたとき、又上記手段等により業務の遂行を阻害し、若しくは生産意欲を阻害する行為があったとき。」ないしは同条三三号の「業務の内外、業務の有無を問わず他の従業員に対し、出社嫌悪、生産意欲の阻害その他業務の能率を低下させるようなことを言い、又はさせたとき。」という解雇事由には該当しないものといわなければならない。

三  前記一項掲示の5ないし8の各事実中、前項で除外した部分を除いた債権者の行為は、一応債務者主張の前記懲戒事由に該当すると解されるが、債務者は、経営者交替の直後から、経営再建のためと主張するものの、組合対策以外には合理性が認め難い「身分一新」を打ち出し、かなり執拗に組合員らに退職を勧奨し、また筑後会結成の過程においても前掲事実関係にてらして自ら組合員らに働きかけをしていわゆる第二組合を結成させた支配介入行為の存在を認めざるを得ない。これらの事実にてらすと、債務者は、組合の存在を嫌い、債権者が前記の如く組合に加入し、その執行委員長であること、組合の正当な活動をしていることを嫌っていたものと認めるのが相当である。このことと前述の如く、債務者が懲戒事由として挙げた相当部分が債権者につき認められないこと、前記の債権者の懲戒事由該当行為も、前述の事実関係にてらすと、前記債権者の支配介入等の不当労働行為に反撥し、組合役員として組織を防衛する意図のもとになされたと認められることにより、債務者が本件につき諭旨解雇を選択して為した債権者に対する処分は、債権者が組合の役員であることを嫌い、これを決定的な理由として債権者を企業から排除するために為した不利益な取扱いであると共に、就業規則の解釈適用を誤り、ひいては処分権を濫用して為された違法があり、無効と判断すべきものである。

四  そして、疎明資料および審尋の全趣旨によれば、債権者は懲戒解雇処分を受ける前の昭和六一年七月には金五万六一四二円、同年八月には金三万一九三五円、同年九月には金三万一〇六八円の給与を毎月七日に支給されており、右三カ月の債権者の給与の平均は月約金三万九七一五円であったところ、債権者は同年一一月四日に債務者から諭旨解雇処分を受けたため給与の支払をまったく受けられなくなったこと、債権者の一家は債権者が債務者から支給される給与と妻のパート収入によって生計を立てているものであって、債権者の給与が支給されなくなると妻のパート収入があるものの、僅少であって、これだけで債権者一家の生計を維持していくことが困難であることが一応認められ、これらの事情に照らすと、前記のとおり債権者に対する諭旨解雇処分が無効であるにもかかわらず、債権者が被解雇者として取り扱われ、本案判決確定に至るまで給与を受けられないことにより債権者に回復し難い損害を生ずべきことが認められるから、本件諭旨解雇処分の効力を停止して債権者が債務者に対して雇用契約上の地位を有することを仮に定めるとともに少なくとも本案判決言渡しに至るまで債務者から債権者に対して前記平均賃金が仮に支払われるべき必要性も認められる。

五  なお、債権者のその余の申請については被保全権利および保全の必要性についての疎明がないから却下を免れない。

六  よって民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡野重信 裁判官 有満俊昭 裁判官 奥田哲也)

仮処分申請書 (昭61・11・13)

申請の趣旨

一 債権者松尾勇夫が債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める

二 債務者が昭和六一年一一月六日付で債権者池松俊明及び同近藤良助に対してなした懲戒休職、同本田末昭及び同小宮治夫に対してなした懲戒停職の意思表示は仮にこれを停止する

三 債務者は債権者らに就業の機会を与えなければならない

四 債務者は各債権者に対し、債権者松尾勇夫に対し昭和六一年一一月四日から、同池松俊明に対し同年一一月三日から、同近藤良助に対し同年一一月二日から、同本田末昭に対し同年一一月一日から、同小宮治夫に対し同年一一月三日から各債権者らが就労に至るまで毎月七日限り、それぞれ金一二万八〇〇〇円を仮に支払え

五 債務者は債権者松尾勇夫に対し、債権者松尾勇夫が就労した後本案判決確定に至るまで、毎月七日限り、それぞれ別表賃金表に基づいて算出した金員を仮に支払え

六 債務者は債権者池松俊明、同近藤良助、同本田末昭及び同小宮治夫に対し、同人らが就労した後二か月間の懲戒休職期間が経過するまで毎月七日限り、それぞれ別表賃金表に基づいて算出した金員を仮に支払え

七 申請費用は債務者の負担とする

との裁判を求める。

申請の理由

第一 被保全権利

一 当事者

債務者はタクシー事業を行なう有限会社である(以下「会社」という)。債権者らは、いずれも債務者会社にタクシー乗務員として雇用されているものであり、会社のタクシー乗務員ら従業員で構成される自交総連平和タクシー労働組合(以下「組合」という)に所属している者である。債権者松尾は右組合の執行委員長であり、同池松は副委員長、同近藤は書記長、同本田及び同小宮は一般組合員である。

二 解雇、懲戒休職、「懲戒停職」通告

債権者らは債務者から次のとおり処分通告を受けた。もっとも就業規則には「懲戒停職」という処分はない。

しかし右各処分は債権者らの正当な組合活動を敵視する債務者会社が、組合を潰すことを目的として行なった、なんら正当な根拠に基づかない違法・不当なものであり、とりわけ実質的には勤務ダイヤ変更にともなう仮処分申請と、ストライキ実施に対する報復(しかえし)の意味をもつものであり、とうてい認められないものなのである。

〈省略〉

この処分がいかに違法・不当なものであるかを以下において明らかにする。

三 本件仮処分は、いずれも正当な組合活動に対する報復措置であり不当労働行為である。

債権者らは昭和六一年六月経営陣の交替があった以降、新経営陣が行なってきた組合潰しを目的とした、いろんな攻撃と闘ってきた。

債務者がかけてきた大きな攻撃の一つであった昭和六一年一〇月一日からの勤務ダイヤの一方的変更に対しては、これを阻止すべく債権者らで構成する自交総連平和タクシー労働組合は昭和六一年九月二九日御庁に対し前記労働契約確認の仮処分を申請して勤務ダイヤの一方的変更を争うとともに同年一〇月一日からの二四時間ストライキを連続して闘った。

債務者らがストライキに入った当初からこのストライキに対して「事後措置」をとる旨言明し脅しをかけていた。債権者らに対する本件各処分は債務者が予告どおりの「事後措置」を実際にとってきたものなのである。

しかも処分理由としてあげられている理由は事実に反しているし仮に事実が存したとしても、いずれも正当な組合活動ばかりである。

このことをみても本件処分が債権者らの争議行為に対する報復措置であり裁判所の前記決定を無視した報復措置であることが明らかである。

したがって本件各処分はいずれも債権者らの正当な争議行為に対する報復措置であり、不当労働行為であることは明らかである。

四 本件各処分の理由は事実に反し、また真実だとしてもいずれも正当な組合活動である。

債権者らに対する処分理由は債権者松尾、同池松及び同近藤が共通であり、同本田及び同小宮が共通である。右本田及び小宮の処分理由は右松尾ら三名の処分理由に含まれている事実である。以下において本件各処分の理由がいずれも事実に反し、また真実だとしても正当な組合活動を処分理由とするものであることを明らかにする。

1 処分理由第1の1(債権者本田及び小宮に対する通告書では第1)記載の事実について

これは債権者近藤、同小宮、同本田及び申請外赤坂賢治が、組合を脱退して昭和六一年七月一二日に結成された第二組合である筑後会に参加し、しかも筑後会の副会長となった藤吉岩男に対して組合脱退の理由、筑後会結成の理由や経過を問いただしたことを処分の理由としている。

しかしこれは組合の組織防衛上当然の行為である。六月一一日第一交通がやってきて以来、組合は会社よりの組合潰しの攻撃と闘ってきた仲間だった藤吉が、仲間を裏切って会社に組みしていったのである。藤吉の行動を問いただすのは、組合活動としてなす当然の行動なのである。

しかもそこには強制や暴力にわたる行為は一切存しなかった。

2 処分理由第1の2について

これは全く処分理由たりえないものであり、債権者それぞれに対する処分がいずれも債権者らの正当な組合活動に対する報復のための処分であることが如実に示されている。

すなわち債権者らで構成する組合は、昭和六一年六月経営者が交替する以前から、賃上げ要求等債務者会社との交渉が妥結するまでの間、組合旗等赤旗を掲揚してきており、これを債務者会社は認めてきたのである。

新経営陣はこのような従来の慣行を無視し組合が掲揚した組合旗等をひきずり降して隠匿したりしたのである。

そこで組合は昭和六一年七月五日福岡県地方労働委員会に対し債務者会社の不当労働行為の禁止を求めた際、組合旗等の掲揚の妨害禁止をもとめ、同委員会は同年七月一二日、債務者会社に対し組合が行なう会社敷地内での組合旗の掲揚等について慎重に対処するよう勧告したのである。

債務者会社は、このような地労委の勧告にもかかわらず、組合旗等の掲揚を妨害し、その後も組合が掲揚した組合旗等をひきずり降したり、隠匿したり、捨てたり、希硫酸(バッテリー液)やカッターナイフ等で破いたりしているのである。

また組合は債務者会社との賃金問題等労働条件についての交渉が妥結すれば、組合旗等の掲揚はせずに済むのであって、債務者会社は力ずくで組合を押え込もうとするばかりで、話し合いで解決しようとする姿勢は全くみられないのである。

このように処分理由第1の2は全く処分理由たりえないものである。

3 処分理由第1の3について

(一) (1)について

組合旗等の会社敷地内での掲揚が正当な組合活動であることは右2で述べたとおりである。

申請外組合員赤坂賢治が会社敷地内に立入ることは正当な組合活動であることは御庁昭和六一年(ヨ)第一三一号立入禁止等仮処分事件についての答弁書記載「債務者の主張」で述べたとおりであるからこれを引用する。

(二) (2)について

これが全くの言いがかりにすぎず、デッチ上げにすぎないことは御庁昭和六一年(ヨ)第一一八号の右事件の債権者提出の昭和六一年九月二九日付準備書面二二頁以下および御庁昭和六一年(ヨ)第一三五号労働契約確認仮処分事件の申請書第二の一の2の(二)、(三)で明らかにしたとおりである。

すなわち、昭和六一年九月四日正午ころ、申請外赤坂賢治が正当な組合活動の一環として会社敷地内にある乗務員控室へ入ったところ、井上係長と畑課長とが右赤坂を乗務員控室から追い出そうとして、井上係長が右赤坂の腕をつかんで引っ張り、畑課長が右赤坂を押したために井上係長と共に右赤坂は倒れたのである。これにより右赤坂は右肘部右前腕擦過打僕(通院加療一週間)の傷害を負わされた。しかるに井上係長はあたかも自らが被害者であるかのように装って一一〇番通報したが、これは全く問題にならなかったのである。

また、同人は昭和六一年九月六日、いつものように昼休み時間中に会社に出て他の組合員と話していたところ、会社の塩田係長からいきなり突きとばされてあお向けに転倒し、後頭部を打ち、加療一週間を要する後頭部打撲、全身打撲の傷害を受けた。

(三) このように処分理由第1の3の事実のうち、(1)は正当な組合活動であり、(2)は被害者はむしろ組合員なのであって、いずれも全く処分理由たりえないものなのである。

4 処分理由第1の4について(債権者本田及び小宮に対する通告書では第2)

(一) 債権者らは昭和六一年一〇月一日からの会社の一方的な勤務ダイヤ変更に対し、組合として従来の勤務ダイヤに基づく就労を申し入れ、これが拒否されたため二四時間のストライキを通告してストに入るということを同月二七日まで繰り返してきた。

この間組合は債務者会社の組合に対する不当な攻撃を市民に訴えた。また組合を裏切り第二組合筑後会を結成し、これに加入した者の裏切り行為を市民に訴えるとともに彼らが組合に復帰するように求めた。

この教宣活動で訴えた内容はいずれも真実である。しかもこれは第二組合の結成は会社のきも入りでなされたものであり、組合をつぶす目的でなされたものであるから、債権者らの組合がその不当労働行為を市民に訴え、組合組織を防衛し債権者らの労働条件を守るためになされた教宣活動であり、正当な組合活動である。

したがって、このような正当な教宣活動をも処分の理由とする本件各処分がストライキ等債権者らの闘いに対する報復のための処分であることは明らかであり、全く処分理由たりえないものである。

しかも第二組合幹部と平和タクシー労組及び組合員との問題に債務者が第二組合幹部の側の立場にたって、処分をしてくること自体、第二組合と債務者が一体であり、まさに債権者らの組合をつぶす目的で本件処分が行なわれた事実を証明しているのである。

(二) 債務者会社は債権者らの組合のストライキ期間中の教宣活動に対し、これをつけ回し、接近して写真を撮ったり録音をしたりするなどして教宣活動を妨害し組合員を挑発するなどした。

組合は新経営陣のこれまでのさまざまのいやがらせや挑発に乗らないよう意思統一して行動してきたし、教宣活動をつけ回す会社の職制に対しても引き返すよう要求してきたにもかかわらずこれを無視した。

処分理由第1の4の(2)に記載してある事実は全くのねつ造である。ねつ造のもととなっている事態は債務者会社の職制が債権者ら組合員の教宣活動をつけ回し挑発をかけたために生じたものなのである。したがって債務者がこれを本件各処分の理由としているのは、自らの挑発によって生じた事態をしかもねつ造してまで債権者を処分せんとするものであり、本件各処分が報復のための処分であり、第一組合員を兵糧攻めにし、その疲弊をねらった処分であることは明らかである。

五 以上のように、本件各処分の理由はいずれも正当な組合活動を理由とするものであり、報復のための処分である。

また、御庁昭和六一年(ヨ)第一三五号労働契約確認仮処分事件昭和六一年一〇月二七日決定において勤務ダイヤの一方的変更を阻止された債務者会社が報復として行なってきた処分であることは明白である。したがって本件処分は不当労働行為であり、処分権の濫用であり無効である。

第二 保全の必要性

一 債権者松尾勇夫は債務者会社に対して解雇無効確認の訴えを、債権者池松俊明、債権者近藤良助、債権者本田末昭及び債権者小宮治夫は休職処分無効確認の訴えを提起すべく準備中であるが、債権者らはタクシー労働者であって、債務者会社からの賃金のみで生計を維持しているので、本案判決の確定を待っていては著しい損害を被るおそれがある。

債権者らは債務者会社からの収入によって生計をたてており、この収入の途が断たれると債権者の家族の生活が困窮に陥るのは必至である。債権者松尾勇夫、債権者池松俊明、債権者近藤良助及び債権者本田末昭の妻らはパート等で働いているが、いずれも収入は僅少であって、それだけで債権者ら一家の生活を支えるのは困難である。債権者松尾はもちろんのこと、その余の債権者らはすでに二七日間のストライキにより経済力が著しく低下しているところに、さらに引き続き本件各処分により就労できないことになれば、債権者らの生活が経済的に破綻するのは火をみるより明らかである。したがって保全の必要が存することは明らかである。

二 債権者らはこのままの状態では就労することもできないし、組合つぶしのためのいやがらせの差別的な処分をいたずらに繰り返してきた債務者が、債権者池松俊明、債権者近藤良助、債権者本田末昭及び小宮治夫について、さらにまた今後の争議行為に対して本件処分をうけたことを前提にして、より重い懲戒処分を課してくるおそれが大きいのであり、本訴の確定を待っていては出勤停止の期間を徒過してしまう。

三 債権者らはそれぞれ処分を受けたが、それらの処分が無効であれば、これまでどおりの賃金を受けることができる。

債務者会社の乗務員賃金体系は複雑であるが、運収二七万円に対して固定給合計は金一二八、〇〇〇円である。そして、運収二七万円は債務者会社の労働者が平均的に乗務すれば得られる売上げである。債権者らは債務者会社による不当労働行為さえなければ月平均金一二八、〇〇〇円の賃金をあげることができる。

よって債権者らは本件各処分の申請に及んだものである。

答弁書(昭61・11・27)

申請の趣旨に対する答弁

債権者の申請を棄却する。

申請費用は債権者の負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由に対する答弁

一 第一被保全権利の主張中

(一) 当事者についての事実は認める。

(二) 解雇、懲戒休職、懲戒停職通告の事実中、

債務者会社が右処分をなした事実は認める。但し懲戒停職とあるは懲戒休職のミスタイプである。

「しかし……」以下の事実は否認する。

(三) 本件処分が、いずれも正当な組合活動に対する報復措置であり、不当労働行為であるとの主張事実

右事実中左記の事実を除きすべて否認する。

昭和六一年一〇月一日から勤務ダイヤを変更した事実、これに対し平和タクシー労働組合(以下組合と称す)が争議行為に入った事実、違法争議行為に対し処分を予告していた事実は認める。

(四) 本件処分が真実に反し、且つ正当な組合活動である旨の主張事実

右事実はすべて否認する。

(五) 本件処分が報復のための処分である旨の主張事実

右事実はすべて否認する。

二 第二保全の必要性の主張中、

(一) 一、記載の事実については否認する。

(二) 二、記載の事実については否認する。

(三) 三、の記載事実中請求賃金については労働基準法による各人の過去三ケ月の平均賃金は左記のとおりである。

債権者松尾勇夫

平均賃金月額金三九、七一五円

債権者近藤良助

平均賃金月額金六〇、六六〇円

債権者池松俊明

平均賃金月額金一一八、六三六円

債権者本田末昭

平均賃金月額金一一二、三〇六円

債権者小宮治夫

平均賃金月額金一四九、〇二八円

右債権者らはいずれも勤務不良者にして債権者松尾、同近藤は特にほとんど出勤せずきわめて低額の賃金しか給与を受けていなかった者であるから、固定給は賃金規定により支給を受ける資格がない者である。

準備書面(一)(昭61・12・1)

第一 組合争議前の情況

一 債務者会社再建方針の変更

債務者会社は新経営陣が昭和六一年六月一二日に経営の譲渡を受けて以来その再建のためには生産性の向上以外には考えられず、そのためには従業員の再建に対する協力が不可決であると考えている。生産性の向上は現在のタクシー業界の経済情勢からして過当競争を如何に乗り越えていくか、それはサービス産業においては顧客の獲得であり、そのためには顧客に対するサービス以外に考えられない。タクシーの交通機関としての公共性から二四時間のタクシーの稼動は陸運局からもその要請が求められている。

債務者会社はその従業員の勤務体制を三ケ月に亙って検討した結果、一三日乗務制には幾多の矛盾点があり、又労働基準法に違反せざるを得ない問題点があり、更に従業員の健康管理上の問題点を含んでいることが判明した。

(一) 勤務条件の矛盾

1 一三日乗務制の矛盾点

一三日乗務制は多くの矛盾点を含んでいることが次第に判明し勤務体制について抜本的に再検討する必要が生じたものである。その矛盾点を列挙すると、

〈1〉 一三日乗務制は朝七時三〇分乃至八時三〇分より翌朝午前二時乃至午前三時まで拘束時間一八時三〇分乃至一九時三〇分の長時間に亙り連続労働するため勤務時間の最後頃には疲労が蓄積して生産性が上がらず、翌日が非番であっても休息が充分に取れない傾向が強いことは医学的にも立証されている。そのため労働基準局は労働者の健康管理のためタクシー業界の指導として一三日乗務制を出来るだけ減して一週五日勤務制その他の連続勤務制を従来より通達により指導しているものである。

疲労の蓄積は労働意欲の低下と共に交通事故の増加を意味する。それは売上額の低下と損害の発生であり、最もタクシー会社にとってマイナス要因である。

一三日乗務制はこの点からしても生産性の低い勤務体制であるといはなければならない。

〈2〉 一三日乗務制は前記のとおり一日の内午前三時より午前七時三〇分までは債務者会社においてはタクシーが全く稼動していない状態となる。これはタクシー業の公共性から緊急の顧客の要望に対応できない営業であって、陸運局の指導等に添えない企業体制といはざるを得ない。

〈3〉 一三日乗務制は実際にこの制度を運用すると、労働基準法に違反する事態が発生せざるを得ない点が最大の難点である。即ち一三日乗務制は従業員の勤務の平等化を計るため毎月交替制即ち偶数日と奇数日に分けて毎月ローテイションを組んで編成されるが、その交替期にはかならず連続勤務が生じ、従業員の約三分の一に労働基準法違反である月四回の休日がとれない事態が生ずる。又、時間外勤務にしても旧経営者は労働基準法を全く無視して、月一三日乗務以外の乗務を従業員の希望により実施していたが、今後は労働基準局の勧告もあり、違法な営業行為であるから債務者会社としても従業員の希望があっても実施することはできない。

即ち債務者会社は昭和四四年度に一三日勤務制について労働基準法違反として勧告を受け、それに基づいて五日勤務一非番一公休制に改善した実積があったが、再び一三日乗務制となり、その後数回労働基準局の勧告指導を受けており、昭和六一年九月に指導を受け、是正勧告の調査を受けたので、前記のとおり一三日乗務制では無理があるため新乗務制に止むをえず切り替えたものである。

〈4〉 一三日乗務制は前記のとおり一日の拘束時間が長いためどうしても集中的な稼動が困難となり、然も勤務の後半は疲労により稼動率が低下し、生産性が極めて悪い非能率的な制度である。このことは経営上経験的に実証されている。更に代休及び公休を利用すると一週間全く乗務しなくてすむ実質上の休暇をとることができるため、農繁期、正月、連休等債務者会社にとって稼動繁忙期に反って従業員の出勤率が低下することとなっている。従って従業員の生産性を高めるには、労働時間を短縮し集中的に稼動できる方式をローテイションに組み、全体的に稼動率を高めて生産性を向上することであり、一三日乗務制は全体的には稼動率の低下を来たすものである。

2 一三日乗務制の採用状況

一三日乗務制を現在も採用しているタクシー企業は久留米市内においてはつばめタクシー一社のみであり、福岡市内においても僅かに三社ぐらいに過ぎない。東京、大阪等大都会においては単位客数が多いため稼動率も高いので隔日勤務制が採用されているところも多いが、久留米市ぐらいの都市では単位客数が少ないので労働集中率が散漫となり稼動率が低下すると共に隔日勤務制は反って生産性の低い制度となって了うのである。

(二) 新勤務条件

1 新勤務条件の設定にあたっては従来の一三日乗務制度と比較して労働条件が低下してはならないことが第一条件である。

そこで現行一三日乗務制の年間労働条件は次のとおりである。

2 債務者会社が今回実施した新勤務条件は次のとおりとなる。

3 以上一三日乗務制と新乗務制とを労働時間で比較すると、拘束時間では年間及び月間で同一にしてあり基本的には全く差異がない。

〈省略〉

次に基本労働時間では新乗務制の方が月間約五・〇一時間減少している。

残業時間では年間約八・〇一時間月間約〇・六七時間増加する。深夜時間は年間約一九六・五三時間、月間約一六・三七時間減少する。

以上相対的に考慮すると新乗務制の方が労働条件としては一三日乗務制より実質上軽減されていることが明瞭である。然も深夜時間の労働軽減は従業員の健康状態、労働負担を考えるとき極めて有益であることは明瞭であろう。又勤務時間からすると通常の勤労者の勤務時間に近くなり、生活設計のサイクルも寧ろ世間並となっているものである。

4 一三日乗務制と新乗務制との賃金比較

タクシー従業員の賃金はその算定が極めて困難で、個定給の他に売上げに対する歩合給が主となるため勤務時間帯によっても異なってくる。しかし、勤務時間帯もローテーションにより平均化されるので年間の総労働時間を月間で平均すると、一三日乗務制では二三四・六四時間となり、新乗務制では二二六・三七時間となりその差は約八時間となるが、現行賃金体系では深夜、残業手当は固定給に含まれているため深夜残業手当が減少することはなく、寧ろ深夜残業手当の時間当り単価は高くなる。本来債務者会社の賃金は久留米地区の他の同業者に比較して歩合制賃金は比較的高額と考えられるので、年間総賃金額はさほど高下はないものと思料される。

実際は新勤務制を実施してみなければ賃金実態は把握が困難であり、実施の態様によって不公平が生ずれば実態に即した適正な是正は考慮される。

(三) 新勤務制採用の理由

以上一三日乗務制と新勤務制とを比較したが、債務者会社が新勤務制を採用した理由はその比較の中に現れているように

1 新勤務制の順守により労働基準法に違反する点を改革できる。

2 労働条件中深夜労働及び連続労働が大幅に短縮され、社会生活サイクルが通常社会人と略同様になり、健康的になる。

3 深夜連続労働が減少したことにより、新勤務制の労働時間に集中して高能率の労働が当然期待できる。

4 従来の惰性による労働時間内の能率低下が防止できる。

5 従来の代休、欠勤等の勝手な行使による生産性の低下を防止できる。

6 従来の非能率的な勤務態度を根本から改革するためには勤務条件を変更し是非気分を一新する必要がある。

7 隔日勤務は非番、公休を利用して長期の休暇をとり、アルバイト等に利用し休暇が休暇に利用されていない不合理がある。

以上の理由により債務者会社は新勤務制を採用したものである。

(四) 新勤務制についての団体交渉の経過

1 債務者会社は新勤務制を採用するに際して自交総連平和タクシー労働組合(以下同労組と称す)とも協議する必要があるので、昭和六一年八月二九日に同労組に対して新勤務制の資料をそえて協議を申し込んだ。これに対し同労組も検討することで協議を開始した。

2 その後債務者会社と同労組との間で数回協議がなされ、当初同労組も新勤務制に反対していたが、途中より遠距離通勤者の一三日乗務制の採用を申し出たので、債務者会社も考慮することで妥協し、二〇キロ以上の通勤者について一三日乗務制を採用し二重制度をとることを回答した。

3 しかし、同労組はこれも拒否してきたため、債務者会社は新勤務制に就いて前記の理由よりその経営方針上これ以上譲歩は出来ないため実施を決意したものである。久留米地区は前記のとおり一三日乗務制をとる業者は少なく、その理由は先に述べたとおり経営上生産性が低下することが原因であり、合理性がないからである。

4 債権者等は種々理由を述べているが、債務者会社が主張しているように合理的理由はむしろ新勤務制の方が充分に存在する事は常識的にも首肯できるところである。

(五) 新勤務制を採用せざるを得ない理由

当初述べたように債務者会社は倒産会社であり、これを再建をするためには生産性の向上以外に考えられず、更にタクシー業界は過当競争下にあり、その経済情勢からしても現在悪戦苦闘している国鉄を想起すれば規模こそ違え、債務者会社が新勤務制度を決意せざるを得ないことは当然である。国鉄と同様に企業再建のためには協力しない従業員は不必要であることは企業の生き残りのためには経営者として決断せざるを得ない最後の手段であり、それが経営者の社会的責任である。新勤務制度は債務者会社を再建するためには必須の手段であり、経営の最良の方法と判断して採用したものである。いかなる経営方法を採用するかは経営者の裁量の範囲内にあり、それが経営権である。労使が利害を異にして協議が成立しないとしても経営権の内部にまで立ち入ることはできない筈である。会社の再建のために他に社会的に合理的な方法があるならば格別、それが見付からないならば新勤務制がより合理的なるが故に債務者が新勤務制を採用することは何等違法ではない筈である。このことは会社の経営不振に伴う整理解雇を考えたとき、整理解雇の可否は経営内容、労使の協議の有無、その内容、解雇条件等を勘案して実施できるものである。

債務者会社の再建の為に新勤務制を採用するか否かは同様の観点から判断すべきである。

第二 新勤務体制に対する同労組の対応

一 債務者会社の新勤務体制の実施

債務者会社は以上の理由から新勤務体制がより合理的であり、労働基準法に対応した適法な勤務体制にして、また現実に即した妥当適切な勤務体系であり、然も違法状態を存置する訳にいかず早急に実施すべきものであると思料したので、昭和六一年一〇月一日より実施することを同労組に通告した。

二 同労組の争議行為への突入

これに対し同労組はストライキ通告をなし、同日より実質上同月二九日まで連続スト通告をなし争議行為に突入した。

第三 同労組の違法争議行為

一 債務者会社の新勤務体制実施に対し同労組がストライキを通告し争議行為に入ること自体は適法な争議行為であるが、会社外において会社の管理職或いは他の従業員の自宅にまで赴き集団で取囲み、拡声器の音量を最大にして近隣の静穏を攪乱し、管理職或いは従業員の個人の誹謗にわたる暴言等により名誉を毀損し、また会社の信用を毀損するような虚偽の事実を放送することは許されない違法な争議行為である。

二 同労組は争議行為に入ると同時に昭和六一年一〇月一日より同年一〇月一八日までの間債権者執行委員長松尾勇夫、同副委員長池松俊明、同書記長近藤良助は同労組三役として債権者本田末昭、同小宮治夫、その他同労組員らと共謀のうえ、第二組合筑後会の組合役員である債務者従業員瀬戸重隆、同江上健、同藤吉岩男その他の第二組合員である平田良水、丸山一夫、丸山金太郎らの自宅に多数の同労組員を動員して押掛け、

(一) 昭和六一年一〇月一日久留米市長門石町久留米市営住宅団地に居住する前記瀬戸の住宅を取囲み、拡声器の音量を最大にし、同人が「お金のためなら身を売るひと」「卑劣な男」「小さな体で虚勢をはっていますが本来は何もできない男」「暴力タクシー第一交通の犬となって動き回っている」等放送をなし、近隣の静穏な環境を攪乱し、同時に近隣の郵便受等に同趣旨の誹謗の言葉を記載したビラを多数配付して同人の名誉を毀損した。

(二) 昭和六一年一〇月二日八女郡広川町新代の平田良水宅前にて「組合を裏切って会社の犬になりさがった裏切者」「わずかな金を貰い会社に寝返った男」「卑劣な男」「大変に我侭な男」「わずかな金をもらえばいいのだというちゃちな男」等放送をなし、近隣の静穏な環境を攪乱と同時に同人の名誉を毀損した。

(三) 同年同月一五日久留米市南町市営住宅に居住する前記江上の自宅を取り囲み、拡声器の音量を最大にし、同人が「非常に出鱈目な男」「非常に情けないというか、ずるいというか、腹の黒い男」等放送をなし、近隣の静隠な環境を攪乱し、同時に近隣の郵便受等に同趣旨の誹謗の言葉を記載したビラを多数配付して同人の名誉を毀損した。

(四) 同日債務者会社管理職中原係長自宅前、久留米市西鉄駅前、六ッ門等にて会社を誹謗する「悪徳タクシー」「暴力タクシー」「従業員に対する暴力支配、低賃金、長時間労働、約束は守らない出鱈目な会社」「蛸部屋と同じ会社」「嘘八百を言って人を集めて体の弱い人など、どんどん首にする会社」「大事故を起している会社、暴力会社として有名」等を放送し会社の信用を毀損したものである。

三 昭和六一年一〇月九日午前一〇時三〇分頃八女郡広川町長延七二二番地の二第二組合員平田良水自宅前において債権者松尾勇夫、同池松俊明、同近藤良助は同労組員多数を動員して、前記載のとおり過激な宣伝活動をしていたが、第二組合員平田の家族より保護の要請を受けた管理職畑総務課長、中原営業係長、山本第一交通係長が平田宅に赴き監視していたところ同労組員債権者小宮治夫が平田宅に侵入し、ガレージシャッターを開けようとしているのを右山本が目撃してこれをカメラで撮影されたことより、右小宮が右山本に対しフィルムを代(ママ)えせと迫り暴行し、これに呼応して同労組員債権者本田末昭、赤坂賢治(懲戒解雇中)等がその他の同労組員と共謀して畑、中原を襲って足蹴りしたり押し倒したりして暴行を加え、右山本清一に対し一〇日間の加療を要する左大腿及び左肘部打撲傷、右畑三雄に対し七日間の加療を要する右臀部打撲傷、右中原益男に対し一〇日間の加療を要する右大腿及び右下腿打撲傷胸部打撲症の各傷害を負わせ、畑三雄所有の普通四輪乗用車に対し修理代金四七、〇〇〇円の損害を与える違法な争議行為を行ったものである。

四 以上のとおり同労組は債権者執行委員長松尾勇夫、同副委員長池松俊明、同書記長近藤良助ら執行部の指揮の下に前記違法な争議行為乃至組合活動をなしたものであり、これらの行為は債務者会社の就業規則にも違反するものである。

第四 同労組のその他の違法な組合活動

一 自交総連平和タクシー労働組合の執行委員長松尾勇夫、同副委員長池松俊明、同書記長近藤良介等は上記労働組合の執行機関として共同して組合活動及び争議行為を企画、指導、実行する権限を有する者であるが

(一) 昭和六一年七月一四日債権者近藤良助は同労組員債権者小宮治夫、同本田末昭、赤坂賢治等と共同して、久留米市津福本町聖マリア病院内の会社の管理するタクシー乗場において待機勤務中の従業員藤吉岩雄に対し、第二組合への加入等について面罵のうえ就業したら危害を加える旨脅迫し、この為畏怖した藤吉は以後七日間欠勤を与儀なくされ、同人の勤務意欲を阻害する違法な組合活動を行ったものである。

(二) 予ねてより会社がその施設内での赤旗等の設置を禁止しているに拘らず、同労組の存在、同労組員の意識の高揚を企図して業務命令に反して赤旗等の会社敷地内への設置を強行し、次のとおりの一違法な組合活動を行ったものである。

1 昭和六一年八日六日午前八時三〇分頃債権者委員長松田勇夫および同池松俊明は同労組員後藤幸典を同行して、管理職である井上営業係長、畑総務課長の制止を無視して会社構内に同労組旗、赤旗を六、七本を設置し以て会社の施設管理権を侵害する違法な組合活動を行ったものである。

2 昭和六一年八月八日債権者委員長松尾勇夫は同労組員後藤幸典を同行し、会社管理職が会社施設内に違法に設置された同労組旗、赤旗等を撤去したことに憤慨し、畑総務課長に対し大声で泥棒呼ばわりをして威嚇強迫して職場規律を乱す違法な組合活動を行ったものである。

(三) 昭和六一年八月一三日同労組員赤坂賢治が脅迫暴行等の行為により懲戒解雇処分を受けたことより、同人に対し、組合活動として会社の施設内への立入及び赤旗等の設置を禁止する業務命令を無視して施設内への立入及び赤旗等の設置を強行させ次のとおりの違法な組合活動を企画、指導、実行したものである。

1 昭和六一年九月二日債権者書記長近藤良助は同労組員赤坂賢治を同行し、組合活動である旨宣言したうえ管理職畑総務課長が赤旗等の設置を禁止したに拘らず、会社構内に同労組旗、赤旗等六、七本を設置して会社の施設管理権を侵害する違法な組合活動を行ったものである。

2 昭和六一年九月四日同労組員赤坂賢治は前記債権者らの指示に従って組合活動として会社構内点呼室に侵入しようとした為、管理職井上営業係長が数回制止し、出入口に立ちはだかったところ、同労組員赤坂は同係長を排除しようと強行したため、同係長を転倒させ、一週間の通院加療を要する頭部打撲傷、右前腕、右大腿擦過傷を負わせ、違法な組合活動を行ったものである。

第五 違法行為に対する処置

一 債務者会社は前述のとおり新経営者が引継ぐ以前は倒産状態にあり、労務対策は全くけじめがなく野放図の状態で、従業員も亦その勤務状態は勝手気侭であって就業時間中に組合活動をし、会社施設の使用も野放しであり、会社再建のためには経営者も従業員も会社の就業規則を遵守する決意とその実行が是非必要であった。

二 そこで昭和六一年一〇月一日より争議行為に突入後、突然違法な行為が続発したため債務者会社もこの際就業規則の厳格な実施をすべき事態が発生したものと決断し、昭和六一年一一月初旬債権者松尾勇夫外四名に対し自宅待機を命じ、その間に同人らの処分を慎重に検討したものである。その結果次のとおりの処分を命じた。

第六 懲戒処分の実施

債権者らを懲戒処分にした事実及び就業規則の適用条項は次のとおりである。

一 債権者松田勇夫は自交総連平和タクシー労働組合の執行委員長、債権者池松俊明は同副委員長、債権者近藤良助は同書記長であり、同人等は上記労働組合の執行機関として共同して組合活動及び争議行為を企画、指導、実行する権限を有するものであるが、

(一) 昭和六一年七月一四日債権者近藤良助は組合員債権者小宮治夫、同本田末昭及び赤坂賢治等と共同して、久留米市津福本町聖マリア病院内の会社の管理するタクシー乗場において待機勤務中の従業員藤吉岩雄に対し、第二組合への加入等について面罵のうえ就業したら危害を加える旨脅迫し、この為畏怖した藤吉は以後七日間欠勤を予儀なくされ、同人の勤務意欲を阻害する違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第三三号違反)

(二) 予ねてより会社がその施設内での赤旗等の設置を禁止しているに拘らず、組合の存在、組合員の意識の高揚等を企図して業務命令に反して赤旗等の会社敷地内への設置を強行し、次のとおりの違法な組合活動を企画、指導、実行したものである。

1 昭和六一年八月六日午前八時三〇分頃債権者松尾勇夫および債権者池松俊明は組合員後藤幸典を同行し、管理職である井上営業係長、畑総務課長の制止を無視して会社構内に組合旗、赤旗を六、七本設置し以て会社の施設管理権を侵害する違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第三九号、第八六条第二二号違反)

2 昭和六一年八月八日債権者松尾勇夫は組合員後藤幸典を同行し、会社管理職が会社施設内に違法に設置された組合旗、赤旗等を撤去したことに憤慨し、畑総務課長に対し大声で泥棒呼ばわりをして威嚇強迫して職場規律を乱す違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第二二号、第三九号違反)

3 昭和六一年八月一三日組合員赤坂賢治が強迫暴行等の行為により懲械解雇処分を受けたことより、同人に対し、組合活動として会社の施設内への立入及び赤旗等の設置を禁止する業務命令を無視して施設内への立入及び赤旗等の設置を強行させ次のとおりの違法な組合活動を企画、指導、実行したものである。

(1) 昭和六一年九月二日債権者近藤良助は組合員赤坂賢治を同行し、組合活動である旨宣言したうえ管理職畑総務課長が赤旗等の設置禁止したに拘らず、会社構内に組合旗、赤旗等六、七本を設置して会社の施設管理権を侵害する違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第三九号、第八六条第二二号違反)

(2) 昭和六一年九月四日組合員赤坂賢治は組合活動として会社構内点呼室に侵入しようとした為管理職井上営業係長が数回制止し、出入口に立ちはだかったところ、組合員赤坂は同係長を排除しようと強行したため、同係長を転倒させ、一週間の通院加療を要する頭部打撲傷、右前腕、右大腿擦過打撲傷を負わせ、違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第一三号違反)

4 昭和六一年一〇月一日より同組合は会社の提示した勤務体制変更について抗議しストライキ通告をして争議行為に入ったが、就業中の第二組合員に対しその就業を阻止し、合せて会社業務を妨害しようとして、次のとおりの違法な争議行為を企画、指導実行したものである。

(1) 昭和六一年一〇月一日より同月一七日までの間債権者松尾勇夫、債権者池松俊明、債権者近藤良助は第二組合員瀬戸重隆、同江上健、同藤吉岩雄、同平田良水、同丸山一夫、同丸山金太郎の久留米市、広川町の各自宅を巡回して組合員の大多数を動員し、連日押しかけたうえ、宣伝車の拡声器の音量を最大にして前記各第二組合員個人に対し嘘つき、卑怯者、裏切り者、出鱈目な男、腹黒い男、金で売った男等の言葉で放送し個人を誹謗中傷して名誉を毀損し、会社に対し「従業員を暴力で支配する」「全国でも名高い悪徳タクシー企業」「タコ部屋のような会社」「非常に大きな事故を起している会社」「暴力タクシー」等の言葉で放送し、会社を誹謗中傷して信用を毀損し、更に第二組合員瀬戸重隆、同江上健、同丸山一夫、同丸山金太郎の個人を誹謗したビラを近隣多数に戸別に配布して名誉を毀損し、合せて第二組合員の家族を畏怖させ、近隣の平穏な生活秩序を乱す等違法な争議行為を行ったものである。

(就業規則第八六条第一三号、第一五号、第四四号違反)

(2) 昭和六一年一〇月九日午前一〇時三〇分頃八女郡広川町長延七二二番地の二第二組合員平田良水自宅前において債権者松尾勇夫、同池松俊明、同近藤良助は組合員多数を動員して前記載のとおり過激な宣伝活動をしていたが、第二組合員平田の家族より保護の要請を受けた管理職畑総務課長、中原営業係長、山本第一交通係長が平田宅に赴き監視していたところ組合員債権者小宮治夫が平田宅に侵入し、ガレージシャッターを開けようとしているのを右山本が目撃してこれをカメラで撮影されたことより、右小宮が右山本に対しフィルムを代(ママ)えせと迫り暴行し、これに呼応して組合員債権者本田末昭、赤坂賢治等がその他の組合員と共謀して畑、中原を襲って足蹴りしたり押し倒したりして暴行を加え、右山本清一に対し一〇日間の加療を要する左大腿及び左肘部打撲傷、右畑三雄に対し七日間の加療を要する右臀部打撲傷、右中原益男に対し一〇日間の加療を要する右大腿及び右下腿打撲傷胸部打撲症の各傷害を負わせ、畑三雄所有の普通四輪乗用車に対し修理代金四七、〇〇〇円の損害を与える違法な争議行為を行ったものである。

(就業規則第八六条第一三号、第四四号)

二 以上の各行為は債権者松尾勇夫、同池松俊明、同近藤良助が執行機関として共同して違法な組合活動及び違法な争議行為として企画、指導、実行し、債権者小宮治夫、同本田末昭はその指示にしたがって共謀のうえ、違法な行為をしたものであるから前記各行為は括弧書き記載の就業規則に該当する。

三 よって

債権者松尾勇夫については昭和六一年一一月六日就業規則第八六条及び同但書により昭和六一年一一月四日付諭旨解雇処分とし、

債権者池松俊明について同年同月三日、同近藤良助について同年同月二日、同小宮治夫について同年同月三日、同本田末昭について同年同月一日より夫々就業規則第八五条、第八六条及び同但書により懲戒休職二ケ月としたものである。(前述のとおり債権者小宮治夫、同本田末昭について懲戒停職としたのは懲戒休職の誤植)

以上

別紙 疎甲第一号証

昭和六一年一一月六日

松尾勇夫殿

平和第一交通有限会社

代表取締役 宮脇清

通告書

松尾勇夫を昭和六一年一一月四日付けをもって諭旨解雇処分とする。

理由

第1 松尾勇夫は自交総連平和タクシー労働組合の執行委員長、池松俊明は同副委員長、近藤良助は同書記長であり、同人等は上記労働組合の執行機関として共同して組合活動及び争議行為を企画、指導、実行する権限を有するものであるが、

1 昭和六一年七月一四日近藤良助は組合員小宮治夫、同本田末昭、同赤坂賢治等と共同して、久留米市津福本町聖マリア病院内の会社の管理するタクシー乗場において待機勤務中の従業員藤吉岩雄に対し、第二組合への加入等について面罵のうえ就業したら危害を加える旨脅迫し、この為畏怖した藤吉は以後七日間欠勤を余儀なくされ、同人の勤務意欲を阻害する違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第三三号違反)

2 予ねてより会社がその施設内での赤旗等の設置を禁止しているに拘らず、組合の存在、組合員の意識の高揚等を企図して業務命令に反して赤旗等の会社敷地内への設置を強行し、次のとおりの違法な組合活動を企画、指導、実行したものである。

(1) 昭和六一年八月六日午前八時三〇分頃松尾勇夫および池松俊明は組合員後藤幸典を同行し、管理職である井上営業係長、畑総務課長の制止を無視して会社構内に組合旗、赤旗を六、七本設置し以て会社の施設管理権を侵害する違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第三九号、第八六条第二二号違反)

(2) 昭和六一年八月八日松尾勇夫は組合員後藤幸典を同行し、会社管理職が会社施設内に違法に設置された組合旗、赤旗等を撤去したことに憤概し、畑総務課長に対し大声で泥棒呼ばわりをして威嚇強迫して職場規律を乱す違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第二二号違反)

3 昭和六一年八月一三日組合員赤坂賢治が強迫暴行等の行為により懲戒解雇処分を受けたことより、同人に対し、組合活動として会社の施設内への立入及び赤旗等の設置を禁止する業務命令を無視して施設内への立入及び赤旗等の設置を強行させ次のとおりの違法な組合活動を企画、指導、実行したものである。

(1) 昭和六一年九月二日近藤良助は組合員赤坂賢治を同行し、組合活動である旨宣言したうえ管理職畑総務課長が赤旗等の設置を禁止したに拘らず、会社構内に組合旗、赤旗等六、七本を設置して会社の施設管理権を侵害する違法な組合活動を行ったものである。

(就業規則第八六条第三九号、第八六条二二号違反)

(2) 昭和六一年九月四日組合員赤坂賢治は組合活動として会社構内点呼室に侵入しようとした為管理職井上営業係長が数回制止し、出入口に立ちはだかったところ、組合員赤坂は同係長を排除しようと強行したため、同係長を転倒させ、一週間の通院加療を要する頭部打撲傷、右前腕、右大腿擦過打撲傷を負わせ、違法な組合活導を行ったものである。

(就業規則第八六条第一三号違反)

4 昭和六一年一〇月一日より同組合は会社の提示した勤務体制変更について抗議しストライキ通告をして争議行為に入ったが、就業中の第二組合員に対しその就業を阻止し、合せて会社業務を妨害しようとして、次のとおりの違法争議行為を企画、指導実行したものである。

(1) 昭和六一年一〇月一日より同月一七日までの間松尾勇夫、池松俊明、近藤良助は第二組合員瀬戸重隆、同江上健、同藤吉岩雄、同平田良水、同丸山一夫、同丸山金太郎の久留米市、広川町の各自宅を巡回して組合員の大多数を動員し、連日押しかけたうえ、宣伝車の拡声器の音量を最大にして前記各第二組合員個人に対し嘘つき、卑怯者、裏切り者、出鱈目な男、腹黒い男、金で売った男等の言葉で放送し個人を誹謗中傷して名誉を毀損し、会社に対し「従業員を暴力で支配する」「全国でも名高い悪徳タクシー企業」「タコ部屋のような会社」「非常に大きな事故を起している会社」「暴力タクシー」等の言葉で放送し、会社を誹謗中傷して信用を毀損し、更に第二組合員瀬戸重隆、同江上健、同丸山一夫、同丸山金太郎の個人を誹謗したビラを近隣多数に戸別に配布して名誉を毀損し、合せて第二組合員の家族を畏怖させ、近隣の平穏な生活秩序を乱す等違法な争議行為を行ったものである。

(就業規則第八六条第一三号、第一五号、第四四号違反)

(2) 昭和六一年一〇月七日午前一〇時三〇分頃八女郡広川町長延七二二番地の二第二組合員平田良水自宅前において松尾勇夫、池松俊明、近藤良助は組合員多数を動員して前(1)記載のとおり過激な宣伝活動をしていたが、第二組合員平田の家族より保護の要請を受けた管理職畑総務課長、中原営業係長、山本第一交通係長が平田宅に赴き監視していたところ組合員小宮治夫が平田宅に侵入し、ガレージシャッターを開けようとしているのを右山本が目撃してこれをカメラで撮影されたことより、右小宮が右山本に対しフィルムを代えせと迫り暴行し、これに呼応して組合員本田末昭、赤坂賢治等がその他の組合員と共謀して畑、中原を襲って足蹴りしたり押し倒したりして暴行を加え、右山本清一に対し一〇日間の加療を要する左大腿及び左肘部打撲傷、右畑三雄に対し七日間の加療を要する右臀部打撲傷、右中原益男に対し一〇日間の加療を要する右大腿及び右下腿打撲傷胸部打撲症の各傷害を負わせ、畑三雄所有の普通四輪乗用車に対し修理代四七、〇〇〇円の損害を与える違法な争議行為を行ったものである。

(就業規則第八六条第一三号、第四四号)

第2 以上の各行為は松尾勇夫、池松俊明、近藤良助が執行機関として共同して違法な組合活動及び違法な争議行為として企画、指導実行したものであるから各行為は括弧書き記載の就業規則に該当し、就業規則第八六条及び同但書により諭旨解雇処分とする。

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